はじめに:引っ越しは「並列タスク処理」だった
引っ越しが決まりました。パートナーとの同棲スタートで、二人分の荷物と二人分の手続きが一気に動きます。本番は今週末、6月13日。この記事を書いている今も、段ボールに埋もれて梱包の真っ最中です。
引っ越しという行事の厄介さは、作業が多いことそのものより、全部が並列で締切バラバラに走ることにあります。役所、ライフライン、荷造り、旧居の解約、新居の準備、住所変更。どれかひとつをやっている間に、別のどれかの締切が静かに近づいてくる(そして忘れる)。
毎回これを頭の中だけで捌こうとして、毎回どこかを取りこぼしてきました。今回はやり方を変えて、Claude CodeにTodoist MCPを繋いで丸投げしてみたところ、最終的に9セクション・103タスクが生えました。本記事はその記録です。
きっかけ:これは「チケット管理」だと気づいた
ある日、新居の鍵の受取日と区役所の14日ルールと粗大ゴミの収集日を同時に思い出して、軽く目眩がしました。
そこでふと、これは仕事で毎日やっているチケット管理と同じ構造だな、と気づきます。締切付きの独立タスクが大量にあって、依存関係(車庫証明が取れないと車検証の住所変更ができない、みたいな前後関係)があって、担当者が二人いる。だったら頭で抱えるのをやめて、全部チケットに落とせばいい。
以前は「引っ越し連絡帳」に頼っていた
前回の引っ越しでは、住所変更をまとめてくれる「引っ越し連絡帳」系のサービスを使いました。一度登録すれば電気・ガス・通信あたりの手続きをまとめて流してくれるので、これはこれで便利です。
ただ、ああいうサービスがカバーするのは、あくまで提携・サポート対象の事業者だけです。提携先リストに載っていないものは、そもそも選択肢に出てきません。結果として「リストにあるものは片づいたから全部終わった気になる」→「載っていなかったやつを後から取りこぼす」という事故を、見事にやりました。案の定、引っ越してしばらくは郵便が前の住所に届いていた。
全量をAIに洗い出させる発想に切り替えたのは、この「提携の外側」を自分でカバーするためでもあります。提携も忖度もなく、必要な手続きをただ並べてくれるのは、特定サービスに紐づかない汎用AIならではでした。
問題は、引っ越しタスクの全量を自分で書き出すのも普通に面倒だということでした。ここでAIの出番です。
やったこと:Claude CodeにTodoistを喋らせる
普段の開発で使っているClaude Codeに、TodoistのMCPサーバーを接続しました。MCP(Model Context Protocol)1を繋ぐと、Claude Codeから自然言語でTodoistのプロジェクト・セクション・タスクを直接作れるようになります。チャットで頼むだけで、向こうが勝手にAPIを叩いてくれる感覚です。
最初のお願いは、ざっくりこんな内容でした。
賃貸への引っ越しで必要な手続き・準備・荷造りを全部洗い出して、Todoistに「引っ越し2026」プロジェクトとして作って。セクションで分類して、役所手続きには法定期限も入れて。
これだけで土台ができ、あとは「スマートホーム導入も前提に入れて」「費用は二人で折半する」みたいな条件を会話で足しながら、タスクを育てていきました。
ひとつ先に言っておくと、このプロンプトで一気に100個近いタスクが生えてくると、つい全部正しい気がしてきます。ここは要注意です。最初のプロンプトはあくまで叩き台を一気に作るためのものです。生成された中身、とくに法定期限や必要書類は、別工程で精度チェックを挟むのが前提になります。一括生成と裏取りはセットだと思っておいたほうが安全です。どこまでAIに任せ、どこから自分で確認するかの線引きは、記事の最後でまとめます。
この連携、ターミナルのClaude Codeに閉じた話ではないのもポイントです。Claude Codeはウェブ版(claude.ai/code)からも使えて、同じTodoist連携がそのまま効きます。PCの前にいなくても、たとえば新居でドアの厚みを測りながらスマホから「SESAME対応のドア厚、測ったら範囲内だったのでチェックしといて」と頼める。後述する「入居後確認」のような、現場に行かないと分からないタスクと特に相性が良いです。
出てきたのが、ただのToDoじゃなかった
正直、最初は「項目名がポンポン並ぶだけだろう」と思っていました。実際に出てきたのは、各タスクの説明欄(description)に手順・期限・製品名・価格・参考URLまで詰まった、小さな調査メモでした。
たとえば家電。「電子レンジを買う」ではなく、こうです。
- 確定: パナソニック NE-FL1C-W
- 実勢価格: 約16,500〜18,000円
- 22Lフラット庫内、1000Wインバーター、ヘルツフリー
- 選ばなかった候補: 山善 PRW-F180(約1万円)、アイリスオーヤマ KMB-F186-W(約1万円)
「コスパ最優先なら1万円の選択肢もあるよ、でも今回はこっち」という比較検討まで残してくれるので、後から自分で見返したときになぜそれを選んだのかが分かります。これは地味にありがたい。
ただし、この粒度は「リストを作って」と一言頼んだだけで勝手に出てくるわけではありません。予算感・好み・賃貸の制約といった要望を渡し、調査を何度か擦り合わせて、ようやくこの密度になります。電子レンジの「1万円の対抗馬との比較」も、僕が"コスパ候補も並べて"と注文したから残ったものです。丸投げと言いつつ、実際は調査の壁打ち相手に近い感覚でした。
ここでエンジニアの人はピンとくるはずです。「確定」というステータスがあって、選んだ型番という決定があって、選ばなかった候補とその理由まで添えてある。構造としては、もう家電選びのADR(Architecture Decision Record)2そのものです。決定の中身より「なぜその決定に至ったか」を残すのがADRの肝で、引っ越しのような一度きりの買い物でも、数ヶ月後の自分への申し送りとしてちゃんと効いてきます。仕事のリポジトリでやっていることを、無意識に電子レンジ選びでもやっていたわけです。
書斎(サービスルーム)の床も同じ調子でした。当初AIが出してきたのは、床全面にフロアタイルを敷く案です。
| 品目 | 内容 | 価格目安 |
|---|---|---|
| フロアタイル | タンスのゲン はめ込み式 6畳分 | 26,800円 |
| 防湿層 | アルミ蒸着 断熱・防湿シート 6畳分 | 約4,000円 |
| 合計 | 約30,800円 |
「数箱開けて混ぜて敷くこと(ロット間の色ムラ対策)」「端材は再利用できないので予備を確保」みたいな、施工で実際に効いてくる注意書きまで付いていて、思わず どこで覚えたんだお前は。 と突っ込みました。
ただ、この床タイル案は最終的にボツにしています。書斎全面に約3万円と施工の手間をかけるのは効果に対して過剰だと判断し、コスト見合いでデスク下にデスクマットを敷くだけに切り替えました。さっきのADRで言えば、この決定は後から覆した「Superseded」です。AIの調査がどれだけ精密でも、予算と相談して最終的に削るのは人間の仕事でした。
極めつけは役所まわりです。法定期限を勝手に調べて埋めてくれました。
- 転入届: 引っ越し後14日以内
- 車検証の住所変更: 引っ越し後15日以内(車庫証明の取得が前提)
- 車庫証明: 受取まで1週間程度
「車庫証明が取れてないと車検証の住所変更に進めない」という前後関係まで説明欄に書いてあって、人間が見落としがちな依存関係をきちんと拾っていました。
ただし、ここは手放しで信じてはいけない領域でもあります。期限や必要書類は自治体や制度で差があり、AIの出力が古いこともある。期限を1日過ぎるだけで面倒なので、提出先と必要書類は自治体の公式サイトと窓口で裏を取りました。
セクション設計:9つの箱に分けた
103タスクをそのまま並べたら地獄なので、9つのセクションに分類されました。
| セクション | 中身 |
|---|---|
| 契約・入居前 | 旧居の解約条件、敷金清算、火災保険の解約 |
| 新居準備 | 家具配置、カーテン採寸、照明、防虫対策 |
| 業者・契約 | 引っ越し業者、退去立会い、不用品処分 |
| 公共料金 | 電気・ガス・水道、各種保険の住所変更 |
| 荷造り | 部屋ごとの梱包、貴重品、前日必需品袋 |
| 役所 | 転入届、マイナンバー、免許、印鑑登録 |
| 連絡 | 銀行・カード・携帯・勤務先の住所変更 |
| その他 | 有休取得、近隣挨拶、当日の食事計画 |
| 入居後確認 | (後述、ここが一番エンジニアくさい) |

実際の画面はこんな感じです。タスク名の下に説明がぶら下がっていて、「引っ越し当日の食事計画」には「キッチン未稼働なので外食 or デリバリー」と補足が付いています。
住所変更系は対象が多すぎて、銀行・クレジットカード・ECサイト・携帯…と親タスクの下に子タスクがぶら下がる入れ子構造になりました。「銀行口座の住所変更」を開くと口座の数だけサブタスクが並んでいて、潰すたびにチェックが付いていくのが普通に気持ちいいです。
「入居後確認」がスマートホームの下見だった
9セクションの中で一番性格が出たのが「入居後確認」です。中身がほぼスマートホーム導入の事前調査でした。
- 玄関ドアの厚み測定(30〜43mmならSESAME 5が対応範囲)
- 書斎↔LDK・書斎↔寝室の壁素材判別(RCか軽鉄かでZigbee/Matterメッシュの電波到達が大きく変わる)
- 各部屋+玄関でのWi-Fiテストと携帯電波の計測(届かない部屋はメッシュノード増設の判断材料)
- SwitchBot HubのIRリモコンがエアコン・TVに届くかの到達確認
引っ越しのタスクを頼んだはずなのに、いつの間にか入居初日にやる電波調査の計画書ができていました。このあたりの設計思想は別記事にまとめています。
賃貸2LDKスマートホーム設計——引越前に決めたこと全部 | フナイログfunailog.com
二人でやる:担当わけと費用設計
同棲なので、タスクには担当者を割り当てました。Todoistはタスクごとにアサインできるので、「これは僕」「これはパートナー」と振っていきます。役所手続きのように二人それぞれが自分の分をやる必要があるものは、親タスクの下に二人分の子タスクを並べて、各自で潰す形にしました。
費用の取り決めもタスク化しました。具体的な金額はここでは伏せますが、考え方としては「初期費用は一定期間で返してもらう」「入居から数ヶ月の食費実績を集計してから折半額を確定し、生活費の振込額を段階的に見直す」という設計です。将来の見直しタイミングにも期限付きのタスクを置いておいたので、忘れた頃にTodoistが「そろそろ振込額を見直す時期です」と教えてくれる予定です。お金の話を口頭の約束で済ませないのは、たぶん長く一緒に暮らすコツです(知らんけど)。
やってみて分かったこと
実行中の現時点で、効果と注意点が見えてきました。
良かったのは、抜け漏れが消えたこと。頭の中にあった「あれもやらなきゃ」の不安が、全部チェックボックスに変換されて外部化されました。チケットになった瞬間、不安はただの作業に格下げされます。
一方で、AIの調査を鵜呑みにはできないのも事実です。最初に「後でまとめる」と言った線引きは、やってみたら次のように落ち着きました。
- 製品のスペックや価格は、AIの数字を出発点にしつつ、メーカー公式や価格.comで裏を取ってから買う
- 窓やドアの寸法は参考値扱い。必ず自分で実測してから注文する(説明欄にも「窓枠の寸法は参考値、必ずレールで測り直すこと」と釘を刺しました)
- 役所の法定期限や必要書類は、AIの出力を下調べに使いつつ、最終的に自治体の一次情報で確定する
- 床タイルをデスクマットに切り替えたような予算判断は、人間が握る
結局、AIに任せるのは洗い出しと比較の叩き台まで。スペックも価格も寸法も期限も、最終的な事実確認と予算判断は自分でやる。この分担が一番しっくりきています。
そしてもうひとつ。タスクを全部Claude Codeに作らせると、後から「これ何で必要だっけ」となったときに説明欄を読めば理由が分かります。引っ越しという一度きりのプロジェクトでも、判断の記録が残るのは想像以上に効きました。
最後に
引っ越し本番は今週末の6月13日。今はひたすら梱包しながら、残りのチェックボックスを潰しているところです。「入居後確認」のスマートホーム下見タスクは、入居してからこれから消化していくフェーズ。入居初日に電波計測ツールを片手に各部屋を歩き回る予定なので、その様子はまた別途書こうと思います。
頭で抱えていた引っ越しの不安が、103個のチェックボックスに化けて、ひとつずつ減っていく。丸投げというより、AIに洗い出させて壁打ちしながら詰めた格好ですが、それでも自分でゼロから書き出す手間に比べればずっと楽でした。次の引っ越しでも、たぶん同じことをやります(できれば当分ないといいけど)。
それでは、またね。
footnote
-
Model Context Protocol。AIアシスタントを外部のツールやデータソースに接続するためのオープンな規格。対応サービスを「MCPサーバー」として繋ぐと、AIからそのサービスを直接操作できます。詳しくは modelcontextprotocol.io を参照してください。 ↩
-
Architecture Decision Record。アーキテクチャ上の意思決定と、その背景・検討した代替案・トレードオフを短く記録するドキュメント。決定の結論だけでなく「なぜそうしたか」を残すのが目的です。詳しくは ADR の解説サイト を参照してください。 ↩